犬は月をめざす

もっとブワァー!ときてボーンと!

夜の淵とはどこだ。
いま夜の淵という曲を聴きながらこれを打ってる。
淵は「ふち」と読むけれど「縁」の意味はない。淵の意味を検索してみた。

〖淵〗 エン(ヱン)・ふち
1. 水を深くたたえているところ。 「深淵・淵叢(えんそう)・淵藪(えんそう)・淵源」
2. 深い。また、深く静か。 「淵酔(えんずい)」

ふむ。ふむふむ。夜の淵とは、夜の深くて静かなところとなる。夜は大概静かだ。少なくとも昼よりは静かだ。何もない田舎だって夜の方が昼よりは静かだ。暴走族の暴走ルートの近くでなければ。
深さとは何の深さだろう。思慮かな。夜はほとんどの人は寝ているから思慮も何もあったものじゃない。眠りの深さだろうか。熟睡した時に「いやぁ、昨晩は夜の淵に立ちましてね」なんて言ったらちょっとロマンチックだね。
夜には何となく潜るイメージがある。
昼には潜るイメージはない。昼は陸だ。大陸なんだ。ユーラシアかな。アフリカ。ヨーロッパ。明るくて乾いてて、ギラギラしている。それが昼。
夜は違う。一転する。暗くて少し湿っぽい。きらめきは無いのにどこかつやっぽい。まるで水面(みなも)。深くて底が見えない水面が夜だ。人は毎日、その水面に引きずり込まれる。知らず知らずのうちに身を預ける。万有引力の法則によってリンゴが木から落ちるように、それは当然のことのように。

「穏やかな夜に身を委ねるな、怒れ、怒れ、消えゆく光に」
とある映画に出てきたフレーズを思い出す。
夜は荒波ではない。静かで寡黙だ。その不気味な平穏に、私たちは時々慌ててたじろぎ、水面を波立たせたりする。騒がしい夜とは夜が騒がしいのではなく、私たちが騒がしい。静かだからこそ、騒ぐことが際立ち、楽しい。夜はただ静寂に佇む。

淵には、物事の出てくる根源、物の多く集まる所、という意味もあるらしい。
夜は、昼に顔を出さなかったもの、出せなかったものが出てきて集まる。色んなものが集まる場所。そこが夜の一番深いところなのだろう。水面からは、淀んでいてとても見えない場所。昼には手が届かなかった場所。
夜明け前が一番暗いと言う。夜の淀みはみんなの心の中にある。どうか溺れてしまわぬよう。

なんてね、書いたってね、田舎の夜はヒマなのだよ。夜の淵isヒマ。コンビニまで徒歩三十分だよ。山までは徒歩三歩くらいなのに。ていうか既に山だし。毎日のように猫がネズミ、モグラ、鳥を獲ってくるし。夜は怖い。イノシシ出るかもしれない。勝てる?イノシシ。ジャンピング傘で追い払えるらしいです。試したいけどイノシシとは絶対にエンカウントしたくない。私が勝てる野生動物はなんだろう。社会に飼い慣らされた、私に、勝てる、野生の、どうぶつ。ハムスターに噛まれても痛そう。もうだめだ。

高校に淵先生という人がいた。ハゲてた。佐野常民をものすごくプッシュしてた。佐野常民はね、赤十字を作った人です。佐賀生まれの偉い人です。記念館もあるよ。行ったことないけど。イノシシにやられたら赤十字は助けてくれるのだろうか?