犬は月をめざす

もっとブワァー!ときてボーンと!

『鑑定士と顔のない依頼人』を観たンゴ

幸福な結末か、虚しい最後か?

内容に触れます。ご注意下さい。

鑑定士と顔のない依頼人 [DVD]

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この映画のストーリーを一行で説明しますと「還暦を過ぎた性格の悪い鑑定士(童貞)が、友人に騙されて大事なコレクションを根こそぎ奪われるが、それでもなお共犯の女に抱いた恋心を忘れられないでいる」です!身も蓋も血も涙もないストーリーですね!

このように、大まかにストーリーだけ説明するとバットエンドもいいところなのですが、物事はコインの裏表でありまして、見る面を変えれば、ハッピーとはいかないまでも、ささやかな希望を含むラストに見えるんです。あら不思議まか不思議。

主人公は自らの才能、職業、友人を利用して、不正を働いて女性の絵画を集めています。

彼には自分だけの王国が現実にも内面にもあって、現実の王国とは彼のコレクションを飾る秘密の隠し部屋。

自分の内面を守るために助手に悪態をつき、友人に怒鳴り散らし、依頼人に罵詈雑言を吐きます。 性格も偏屈でして、現実でも内面でも、出来上がった自分だけの王国に、彼以外だれも入れない。 他人に対してキツく当たる人ってだいたい自分の内面を守るためにそうなってしまったパターンが多い気がします。これは自分の経験談+想像談!!

ひとりの依頼人の存在が、王国に変化をもたらします。

王国の変化は、自分の生涯かけて集めたコレクションのすべてを引き換えにして、一時の甘い夢をもたらします。 生涯かけて集めたコレクションvs人肌の温もりの想い出。騙されたんだから警察に行けばいいのだけど、ところがどっこい、不正をして手に入れたコレクションだから、 警察に行きたくても思いとどまる主人公。自業自得だけど悲しすぎる。

最後の場面、訪れる店で、ウエイターから「お一人ですか?」という問いに主人公は「人を待っている」と答えます。 そこからのエンドロールに入るまでの引きのシーンがほんとうに見事で、お店にいる主人公以外の客の全員が2人連れなんですね。 歯車は一つでは回らない。 もちろん主人公は復讐するために依頼人を待っているのかもしれません。 しかし、たとえ好意的な思いがすべてではないにしても、主人公の「待つ」という選択に、誰が希望を持つなと言えるでしょう?