犬は月をめざす

もっとブワァー!ときてボーンと!

『裏切りのサーカス』を観たんご。

裏切りのサーカス スペシャル・プライス [DVD]

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原作未読。 鑑賞前に、複雑、難解、3回観てもわからない、という前情報を目にしていたので、ネタバレを読みつつ鑑賞しました。

英国諜報部、通称「サーカス」の幹部のなかに潜んでいる「もぐら」、二重スパイを、ゲイリー・オールドマン演じるスマイリーが探していくお話。

ネタバレを読みながらではないと、一度の鑑賞では絶対にわけがわからなくなっていただろうと思う。

人物関係の描写が、少ないうえに細かい。セリフで説明しないので、観る側としては、思い過ごしか?深読みじゃないか?と勘ぐれば勘ぐるほどに、観察が欲求される。この観察の欲求が、『裏切りのサーカス』に厳粛な品格を保たせている。観る側の観察に耐えうる役者たちの会心の演技も、同じく。

ネタバレを読みながらだったので「あぁ、この表情はこんな想いが…」とか「ここで言わないのは策士だなぁ」とか、膝を打ちながら鑑賞できた。 と言っても、一時停止と巻き戻しを何回も繰り返しながら、「こんなシーン絶対わからないぜよぉ!」とあまりの混乱ぶりになぜか武士口調になり半泣きだった。バカは時々つらい。

いたって普通に男色が出てくるのだけど、この映画の男色は、というか恋愛模様は、いわゆる慕情だけでなく、信頼、忠義、裏切りなどの要素が深く関係していると思う。スパイ映画だけに。

監督が『ぼくのエリ』の人だったと後から知り、なんとなく納得。ぼくのエリも静かな映画だけど、描写が静かなだけで物語は荒々しく哀しい。 ヘイドン役のコリン・ファースが主演の『英国王のスピーチ』を次に借りよう。

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(以下すこしネタバレ入ります)

スマイリーVSカーラという構図が物語の大きな背景です。 スマイリーとカーラの因縁は、スマイリーの語りによってわかるのですが、たった一度の邂逅だけでこんな因果な関係に陥るなんて、どこか電撃的な恋愛にも似ているなぁなんて思いました。 カーラは、ヘイドンを駒にしてサーカスを手玉に取ると同時に、スマイリーを挑発します。 ヘイドンに妻のアンを寝取らせたのも、アンがスマイリーの唯一の弱点と知っているカーラの傀儡攻撃とも言えるかもしれない。

組織に対する忠誠と裏切り。これはそのまま、人間関係の忠誠と裏切りと言い換えることができますし、時として、自分の中の感情にも当てはめることができます。

なにに忠誠を誓い、なにを裏切るのか。

そういえば、スマイリーって名前のわりに、微笑の一つすら浮かべないのが印象的だった。 全然スマイリーじゃなかった!