犬は月をめざす

もっとブワァー!ときてボーンと!

『イヴ・サンローラン』を観たんご。

イヴ・サンローランと言えば、私が学生のころベビードールという香水がとっても流行って、可愛い女の子たちはこぞってその香りを振りまいていたことをほんのり思い出す。薄ピンクのダイヤモンドみたいなボトルに、キラキラと光る金色のキャップ。ベビードールの甘い香りは、まだ幼さを残しながら懸命に、だけどそれを悟られまいと気丈ぶりながら大人になろうとする彼女たちに、子供がなくし、大人が忘れた、彼女たちにしか持ち得ないものの存在を垣間見せた。

私の知るイヴ・サンローランのすべてはただそれだけだった。

イヴ・サンローラン財団の協力のもと、アーカイブ衣装が貸し出されており、映画でありながらその美しさは再現にとどまることのない本物の美しさを現している。

女性ならばおそらく一度は目にしたことのあるであろうモンドリアン・ルックやスモーキング、サファリ・ルックなどのファッション。新しいものの中にも常に「美」を追求し、創造し続けた、モードの帝王と謳われるイヴ・サンローランの人生の輝きと、決して逃れることのできなかった苦悩。 公私ともにパートナーであったピエール・ベルジェ氏はサンローランの死後、インタビューにて「最も苦しんだときに生まれたコレクションほど、まばゆいものはなかった」と、答えている。

何かを産み出す才能というのは、夜空に光り輝く星のようだ。 人々はその輝きを褒め称え、羨むだろう。 しかしその星は、自身を燃やし尽くす灼熱の温度で焼かれているのだ。その輝きが消えるときまで。